『とびらのむこうにドラゴンなんびき?』
ヴァージニア・カール作・絵 松井るり子訳
徳間書店 2022年9月発行
そらまめみたいに可愛い13姉妹の姫さまたちは、動物好きで、お城はすでにペットだらけのようです。外に遊びに行ってもいいけれど、動物は決して連れてくるなと、お母さんに言われています。それが守れる姫さまたちなら、まあこんなにペットも増えなかったことでしょう。案の定、優しくおとなしいドラゴンを、こっそり(ということにするには、大きすぎるのですが、庶民の住宅事情とはまた違うようで)連れてきて、塔の部屋でこっそり飼い始めました。飼うとはつまり、姫さまたちで寄ってたかって、おいしいものを、どんどこ運び込むことでした。ドラゴンはどんどん太ります。両親にバレた時点で、大きくなりすぎて、部屋から出られなくなっていました。でもそこはそれ、ちゃんとハッピーエンディングが待っています。
アンデルセン作『ナイチンゲール』
カンタン・グレバン絵 松井るり子再話
岩波書店 2019年4月発行
看護師の祖にして偉大なるフローレンス・ナイチンゲールのお話ではありません。夜鶯とも呼ばれる、美しい声で鳴く小鳥と、孤独な皇帝のお話です。カンタン・グレバンは、宮廷の人びとを、操り人形として描いています。彼らを操る黒幕が、どこかで高笑いしているようなうそ寒い世界で、皇帝は死にかけていました。金銀宝石に彩られた、オルゴールの小鳥の定型のうたでは、皇帝を慰めることはできません。生きたナイチンゲールの、コピーでないうたの力によって、皇帝は息を吹き返しました。これからは、見聞の広い小鳥が、ひそかについていてくれます。秘密を持ってつよくなった皇帝が、太陽のように、皆の前に姿を現しました。このお話のたくさんの絵本の中で、一番好きな絵です。
アンデルセン作『おやゆびひめ』
カンタン・グレバン絵 松井るり子再話
岩波書店 2019年4月発行
原話を音読したら、小学校の授業の「いちじかん」では足らないと思われる「おやゆびひめ」って、どんな話かご存じ? と聞いて回ったことがあります。ほとんどの人は「うーん、子どものときに、紙芝居かなんかで読んでもらったことがあると思うけど、よく覚えてない」とのことでした。たしかに、好きでもないヒキガエルや、コガネムシや、モグラと結婚させられそうになるこのお話は、あんまり覚えていたくない部類に入るかもしれません。でも自分を好きになってくれるツバメとの出会いを経て、最後には素敵な王子さまと結婚します。オビにはこうあります。「さらわれ、たすけられた。そして、すきになった」。受動から能動に転じてつかむ幸せに、ほっとします。
『かあさん、だいすき』
シャーロット・ゾロトウ文、シャーロット・ヴォーク絵、松井るり子訳
徳間書店 2018年10月発行
美しい秋の一日、エレンとかあさんは手をつないで、おうちに帰るところです。つよい風のこと、落ち葉に埋もれる子猫のこと、池に映る木立のこと、目のきれいな犬のこと…目に入るもののことをつぎつぎ言葉にしてくれるかあさんですが、エレンが聞きたいことばはただひとつ。そのとっておきは、すぐには出てきませんけれども、ちゃーんと一番よいときに、思い切り聞かせてもらえます。「あのね、エレンの ことが だいすき だいすき だいすきよ」。そう言いながらかあさんは、エレンを抱いたままぐるぐる回ってくれました。「わたしもね、かあさん だいすき だいすきよ」「いっしょね」。こんな気持ちは思っているだけにとどめず、口に出してこそですね。
『まどべにならんだ五つのおもちゃ』
ケビン・ヘンクス作・絵 松井るり子訳
徳間書店 2016年9月発行