■2025年04月21日 3年間 |
ネタばれごめんなさい。中島京子『坂の中のまち』のヒロインは大学の2
年生から卒業までをコロナの中で過ごした。1年生の語学クラスで友達が
できてほんとによかったね。5歳孫はコロナの中に生まれて、その世界し
か知らずに3年間を過ごし、どうなってしまうのかと思ったけれど、今考
えれば乳幼児はもともとおおいをかけた状態で守られるのが理想なのだっ
た。社会性を身につける時期に、遠隔授業で先生とはつながっても、友達
とのつながりが持てなかった学生さんたちには気の毒だったと改めて思う。 |
■2025年04月20日 『坂の中のまち』 |
孫預かりの体力増強を目的に散歩を始め、夫と一緒に継続中。散歩中の我
々の嘆きは「なぜもっと早くにこのあたりをちゃんと歩き回らなかったの
か」。越してきた18年前は森や林、風情のあるおうちがいっぱい残ってい
たのに。中島京子『坂の中のまち』文藝春秋で、同じ後悔にとらわれる。
機会があったはずの小石川植物園あたりをもっとちゃんと歩いておけばよ
かったな。もっとも本では導き役の地学歴史文学デキる婆さんあってこそ
だったね。私も子や孫や若者たちを散歩好きにすることを目指そうっと。
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■2025年04月19日 ガワンデ先生 |
ナレッジマネジメントのZOOM講義で紹介された、アトゥール・ガワンデ『
コード・ブルー』医学評論社を読む。怖くて本を閉じてばかりだったが読
んでよかった。どう努力してもミスがあるのが現実と認めないと、いつま
でも怖いままだし、「おばあちゃんに運転やめてもらう問題」と同じこと
が、医師にもあると知った。同『医師は最善を尽くしているか』みすず書
房の、治療のやめどきについて、シュタイナーの「私たちは未来から来る
恐れと不安が魂に侵入するのを拒絶しなければならない」にハッとした。 |
■2025年04月18日 『ナナのおけいこ』 |
出産子育て経験のある猫のナナは、家にやって来たヒトのあかんぼユイを
も自分の子と思って、猫としてのいろんな稽古をつけてくれた。いとうひ
ろし『ナナのおけいこ』徳間書店。いくら教えても後ろ脚だけで立ち、狩
りが下手な不出来なユイに根気よく教えてくれていたが、ナナも年を取っ
て敏捷さを失い記憶をなくし、我が子と思っていたユイに抱かれて赤ちゃ
んの心地を楽しむようになる。最後に「ネコ道」をどこまでも歩いていっ
たナナは、裏表紙でこっちを向いてニッと笑ってくれた。またねいつかね。 |
■2025年04月17日 『どんぶらどんぶら七福神』 |
「この人は生まれたとき福禄寿みたいに頭が長くて」とお聞きしたとき、
にこにこおじいさんみたいな赤ちゃんの顔を思い浮かべて、くすっと笑っ
てしまった。「…お母さんが3日3晩苦しまれる難産だったため」と続いて
青ざめた。当時私は妊娠中で「南山大学」の音さえ怖かったくせにこの無
神経。自分を殴りたかった。「そのようにしてこの世に生まれてきた尊い
人」に同意しつつ心の中でお詫びした。「無病息災福禄寿、寿命長けりゃ
頭も長い」。柳原良平『どんぶらどんぶら七福神』こぐま社で思い出す。 |
■2025年04月16日 『俺の文章修行』 |
分かる気はするけれどいつもより難しいなと思いながら読んだ町田康『俺
の文章修行』幻冬舎の最後が「お互い、ええ文章書こうで。ほなな。また
な」。またねきっと読むからね(『ギケイキ4』を待ちこがれつつ)。文
章を書く装置は幼少期に設計され、彼のそれは千回読んだ民話ベースの今
江祥智、田島征三『ちからたろう』ポプラ社だって(私は『ちいさいおう
ち』岩波書店)。「功名心に駆り立てられた『クリエーター』が作る刺激
的な『作品』に子供が曝されていない状態」を良しとする。深く共感する。 |
■2025年04月16日 週刊 DUDIKO 696 |
教会の匂い、音、ことば
カトリックの幼児洗礼を受けて、物心つく前から、毎週教会に通ってい
た。物心ついたころはまだグレゴリオ聖歌のラテン語ミサで、いい匂いが
して、いつも忙しい母が、すぐそばでゆっくりしている、よい場所だった。
祈祷書も聖歌の日本語訳も、文語体でよかった。ミサの式次第から、典
礼聖歌まで、どんどん口語文になって行くにつれ、日本語のイントネーシ
ョンに合わせて新たに作曲もされて、わかりやすいのはいいけれど、子ど
も心に「あんまり好きじゃない気がする」だった。
大人になって振り返るに、お経を口語で唱えないのと同じく、ラテン語
のまま、ふるーい旋律のままでよかったのになと思う。その後さらに平易
な日本語に変わって、文語文の祈りしか知らない私はとまどう。
日本語訳の聖歌にはまだ文語が残っていて、旋律はクラシックやヨーロ
ッパの古い旋律で、好きだった。「慈しみ深き」に始まる讃美歌(プロテ
スタントの祈りのうた)に、「罪科憂いを取り去り給う」という歌詞があ
り、子どもの私は「罪と『がうれい』」って何だろうと思っていた。罪に
並ぶ悪いことの「がうれい」。うーん、思い当たらないと思って、そこで
考えを止めて平気だった。大人になってやっと気がついて、自分のボンヤ
リに呆れた。
後から思うに、教会の匂いは百合やバラ。ろうそくの蜜蝋。たまに振り
香炉のフランキンセンス=乳香。まれに水で薄められたワイン。めっきり
衰えを感じているが、50代までは私の五感のうちでは嗅覚が一番冴えてい
ると思っていたし、子どもの頃はもっと鼻がよかった。教会は、音と匂い
と言葉を、退屈の中でゆっくりと味わう場所だったと思う。
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■2025年04月15日 「そっと差し出されたもの」 |
本は一緒に作る相手との絆から生まれると徳間書店「子どもの本だより」
上村令「そっと差し出されたもの」。その相手と親友以上に共鳴し合うこ
とも、国内外に「同志」ができることも、思いがけない苦い行き違いやつ
らい別れもあったとのこと。ああそうなんだ。いいことばっかりじゃない。
にがさ、つらさがあって当たり前なんだとほっとした。忘れようと努力し
て、あるいは時のおかげでやっと忘れた自分のそれが、淡く蘇る。不思議
ともうそんなに嫌じゃない。へえこうなるんだ。なんだか元気が出てきた。 |
■2025年04月14日 『ちいさなふゆのほん』 |
図書館書庫から出してもらった、ディーグマン『ちいさなふゆのほん』福
音館書店を読む。「寒がりの鳥たちはお日様輝く南の国へ飛んで行きます
」。良い文ねえ。ぽろりと涙を落として少女との別れを惜しむその鳥は、
人の子より大きく描かれてこれから海を渡る。見えていたつもりの絵と違
うところも面白い。ちょっと調べると日本で発進機をつけられたオオジシ
ギは地磁気を感じ太陽コンパスを持ち、不眠不休で6日間5000キロをニュ
ーギニアまで。体重は半分に。「トランク」の中身はこれね。可愛い象徴。
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■2025年04月13日 絵は見えているが… |
海外に行く時は大きなトランクと手荷物用のかばんが必要で、それでも足
らなかった。絵本の小さなトランクひとつの渡り鳥を思い出すとき、実は
それさえなしということに打たれる。北欧の絵本で、確か福音館で、ちょ
っととげとげっとした感じのでも可愛い絵で…というところまでは思い出
せた。福音館のWEB目録を見ると「世界傑作絵本シリーズ」の掲載点数が
減ったなと思うし、そこには載っていない。紙の目録は探しやすくて好き。
絵本の作者とタイトルならバババババと出てきた昔を思えど致し方なし。 |
■2025年04月12日 『フラワーズ・カンフー』 |
『ロゴスと巻貝』がよかったので、小津夜景『フラワーズ・カンフー』ふ
らんす堂を読む。収録作「全身を全霊としてつばくらめ」を読んだ日の朝、
夫と散歩していてツバメを見た。「海を渡って来たね」「何にも荷物ナシ
でね。飛行機は燃料だけでも大変な量でしょ」「ほとんどが燃料だね」と
いう話をしていた。その時思い出していたのは、トランクひとつでやって
くる渡り鳥が一羽小さく描かれた北欧の絵本。半日考えて調べてやっとデ
ィーグマン『ちいさなふゆのほん』福音館書店だったかもしれないと思う。 |
■2025年04月11日 『ロゴスと巻貝』 |
『いつかたこぶねになる日』がよかったので、小津夜景『ロゴスと巻貝』
アノニマ・スタジオを読む。こちらも惹きつけられた。小学校時代、図書
館の本を借りる手続きが好きなあまりに、蔵書を図書館ふうに改造し、ク
ラスにも漫画図書館をつくったら大盛況だった話。俳句を始めて2年で自
費出版した句集500冊の置き場に困って「売り捌く」ことを思いつき、刊
行10か月で3刷、4年計画だった費用を2年で完済、新しい仕事につなげら
れた話。もう、もう「ええ話やあ」と泣きたくなるほど素敵なのだった。 |
■2025年04月10日 思い出す昔の愚 |
息子の友人が遊びに来て「家でふたりで遊んでます」と、拙宅に立ち寄っ
てくれたその妻。「ボードゲームね」「そうです。あの歳(アラフォー)
で…羨ましい」。全く同感。顔を合わせ同じ空気を吸い手を動かしながら
アナログもいいとこの遊びに興ずる仲良しさんを持てたなんてお幸せ。昔
夫に囲碁を教わって、これは…面白い!と思ったのもつかのま、ハンデを
つけてもらったのに負けた私は本気でカンカンに怒ってしまった。バカだ。
ボードゲーマーさんたち、盛り上がりすぎに気をつけてお友達を大切にね。 |
■2025年04月09日 週刊 DUDIKO 695 |
『赤毛のアン論八つの扉』
「老眼のせいだよ」と夫にかばわれながら、最近漢字を読み違える。松
本侑子『赤毛のアン論八つの扉』文藝春秋を「八つの罪」と読んでしまい、
「なんと面白そう!」と手に取った。篠崎書林から出ていたモンゴメリは、
日記や書簡集を含め多分全部、アン論の類もできる限り読んできたので、
アン論、モンゴメリ論への反論も是非読みたいところ。「扉」であって「
罪」ではないと気づいて自分の腹黒さを改めて思い知りつつ、本書を大変
興味深く読んだ。
例えば、アンもかぶるタモシャンター帽は、ベレー帽を大きくしたよう
なもので、てっぺんに毛糸のポンポンがついているのが特徴…という説明
を読んでいたら、ビアトリクス・ポター『ベンジャミンバニーのおはなし
』福音館書店を思い出し、絵本を見ればまさにそうなので嬉しくなる。彼
の帽子は青い毛糸編みの帽子に赤いポンポンで、耳出し穴もちゃんとつい
ている(可愛いけど覆った方があったかいよね)。
『炉辺荘のアン』で6人の子を育てているアンが昔の恋敵に、詩や小説
は書かないのかと問われて「生きている使徒書簡(行伝)を書いている」
と言う。これを「子どもたちがイエスの弟子としての観点からして善き人
に育ちつつある今、もの書きの仕事からは離れざるを得ない」という意味
かと思っていた。「母親のアンが…子らに、イエスの言葉を、書物ではな
く、わが身をもって教えているという意味」とあり、そうか!と胸に落ち
た。戦争の話は辛かった。
最終章「翻訳とモンゴメリ学会」では、松本氏の誠実な勤勉さに圧倒さ
れた。アンよりもさらに好きなエミリーシリーズ3巻のうち1巻の従来訳に、
少なくとも一千語が省かれているとお読みして、訳注付き松本訳を待ちわ
びながら、この先の時間を過ごそうという気持ちになって来た。ぜひぜひ
お願いいたします。
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■2025年04月09日 『夕暮れに夜明けの歌を』 |
なんと愛らしい方!と感じ入りながら読んだ奈倉有里『夕暮れに夜明けの
歌を』イーストプレスのあとがきに「文学の存在意義さえわからない政治
家や批評家もどきが世界中で文学を軽視しはじめる時代」について、結構
辛辣に書かれるのに拍手。自分のためでなく人と人を「つなぐ」ための言
葉を選ぶ必要がある。情報は標識役や看板役は果たせても、思考そのもの
ではない。文字が思考に近づくための努力の跡が文学作品と呼ばれる本の
数々。文学不要論が叫ばれるのは文学が決定的に不足している証拠だと。 |
■2025年04月08日 『ラッタくんとかみやまくん』 |
小4の坊やを描いた田中六大『ラッタくんとかみやまくん』ポプラ社たの
し。妹のUFOばなしを「ぜったいうそ」「えー、うそだよ」と言いながら
もどんどん信じてしまい、「お兄ちゃん、あまり簡単に信じちゃダメ」と
たしなめられる。昔の私そのもの。友達のほら話もすぐ信じ、怖いマンガ
が本棚にあるだけで怖いのも。お父さんがラッタ君にマンガ、妹にぬいぐ
るみのお土産をくれたとき、ちょっと羨ましそうにしていたら、後日同じ
ものが増えていて「ぬいぐるみが子どもをうんだのかも」と父。いいな。 |
■2025年04月07日 『あこがれの図書館』 |
ディスレクシアの子どもが適切な指導によって救われる『ありがとう、フ
ォルカーせんせい』のパトリシア・ポラッコ『あこがれの図書館』さえら
書房の図書館の建物が、ボストンのシュタイナー学校の隣にあった図書館
にそっくりでなぜか嬉しい。1年生の子どもがここで毎日のように禁退出
の画集を眺めるのを、にこにこと見守る司書のおばさんが、ある日特別室
で、オーデュボンの鳥の大型画集を見せてくれる。こんなうつくしいもの
を見たことがないと涙ぐむこの子の、これも転機となった。胸を打たれる。 |
■2025年04月06日 読む順 |
源氏読むなら、田辺聖子『新源氏物語』(ストーリーが頭に入る)→大和
和紀『あさきゆめみし』(マンガ。皆同じストレートの黒髪だがお聖様の
おかげで判別可能になっている)→林望『謹訳源氏物語』(一番わかりや
すいおさらい)。枕読むなら、田辺聖子『むかしあけぼの』(小説として
引き込まれる)→橋本治『桃尻語訳枕草子』(原文に接近できる)→小迎
裕美子『本日もいとをかし枕草子』(マンガ。素晴らしいおさらい)。和
泉式部読むならマンガどれでも複数冊→馬場あき子『和泉式部』をお薦め。 |
■2025年04月05日 昭和の政治家 |
折り紙や編み物をするとき、まずはらじる聞き逃しで惹かれる番組を探し
て聞きながら進める。ひとつの枠の中でテーマはいろいろに移っていくが、
ずっと聞いている大枠は何かと振り返ると「カルチャーラジオ>保阪正康
が語る昭和人物史」と気づく。「保阪正康時代と人生を語る」で田中角栄
が「高2までの内容はすべて暗記している」と聞いて、検索した手蹟が見
事だった。後藤田正晴は大変な読書家で「辻褄の合う報告でなく矛盾は矛
盾のままの調査が欲しい」。今は政治家の反知性主義が世界のトレンドか。 |
■2025年04月04日 レシピはネットで調べてね |
すみれが咲き始めた。孫に請われて秋咲きすみれの砂糖漬けを作っていた。
下手なラップの掛け方で冷蔵庫にしまうとヒカヒカに乾いてしまうでしょ
?それを逆用したやり方。花を洗って水分を落とし、箸で卵白に浸しては
グラニュー糖をまぶす。オーブンペーパーに広げて冷蔵庫で長期乾燥。あ
る程度乾いたら小さな器に移す。半年乾かしたそれを婆が紅茶に浮かべて
人体実験。大丈夫だったので孫に渡し、春咲きのすみれで一緒につくる。
楽しいよ。一人でまた作る。夫息子が笑う。婆さん少女趣味おもろいらし。 |